すっかり木を切る作業にも慣れた阪口さん

市民参加型の森林整備を進める活動である「木の駅プロジェクト」運営支援など

  • 兵庫

兵庫県 丹波市 地域おこし協力隊 隊員OG(任期:2019年1月〜2021年12月)
阪口明美さん

気分転換で出かけた山登りが大きな転機に

前職は、大阪府豊中市の臨時職員として事務作業を担当していた阪口明美さん。それまでは、大阪市内に加え、奈良や三重、海外ではオーストラリアなどの土地を転々とし、販売や旅行会社など様々な職業に就いて経験を積んだという。

「元々、販売の仕事や旅行会社などの仕事は好きでしたが、ずっと自分の中で違和感があって、どこかでこの仕事をしているのは、自分じゃないという気持ちがありました。その違和感を持ったまま人と接する仕事を続けていたら、精神的に滅入ってしまいました。」

そんな阪口さんを心配し、知人が山へ誘ってくれたことで転機が訪れる。

「気分転換にと知り合いが山へと誘ってくれました。近場にあって気軽に登れる山だったのですが、山の中を歩いて、自然に触れることですごく気持ちが癒されました。それと同時にふと、自分は今こうして山に癒されているけど、この山はどんな問題を抱えているのだろうかと気になり始めました。」

阪口さんは山について調べるうち、日本森林ボランティア協会を見つける。関西を中心に、ボランティアで間伐などの活動をしている団体だ。この団体が森林大学という夜間の講座を開催していることを知り、受講してみることにした。

「月に数回の講座と現地実習を経験して、実際に山の木の間伐をするなど、最低限の知識を学びました。そこで、森林大学の講師が丹波市在住の方で、授業のときに丹波市のパンフレットを見せてもらったことがきっかけになり、移住するのもありかなと思い始めました。受講生の中にも丹波市から来ている人がいたので、丹波市で仕事がないかと相談したところ、地域おこし協力隊の存在を教えてもらいました。」

阪口さんはさっそく丹波市を訪れてみることに。最初は荷が重いかなと悩む部分もあったが、丹波市を訪れて気持ちが変わったという。

「実際に行ってみたら、四方を山に囲まれた美しい景色に感動しました。そのとき、ここでやってみようと決めました。」

そこからの阪口さんの行動は早かった。2018年9月に移住を決断し、翌年1月に地域おこし協力隊に着任して新生活をスタートさせた。

木の駅プロジェクトのメンバーたち。薪活の中での記念写真

女性の参加者も増えてきたチェーンソー講習に手応えあり

阪口さんの協力隊としての活動内容は、市民参加型の森林整備を進める活動である「木の駅プロジェクト」の運営支援が中心だ。「木の駅プロジェクト」は、低炭素で持続可能な社会づくりを目指す丹波市が山で切り出された間伐材や残材を買い取ってチップや薪に加工し、バイオマスエネルギーとして地産地消を目指す取り組みだ。また買い取りも地域内で使える通貨で行われるため、地域にエネルギーと経済の循環が生み出される。

「最初、運営支援と言われて何をすればいいのかわからなかった部分もあり、着任して半年ぐらいは、協力隊の先輩に業務を教えてもらいました。その方が卒業されたあとは、資金の調達や申請関係が難しくて苦労しました。そんなときも、『木の駅プロジェクト』のメンバーが相談にのってくれて、サポートしてくれたのが心強かったですし、メンバーとの絆を深めることができました。」

阪口さんはほかに、チェーンソー講習や薪割り体験会、交流会などのイベントの開催も担当している。

「1年目は高齢の男性の参加が多かったチェーンソー講習ですが、2年目、3年目と会を重ねていくうちに、女性の参加が増えていきました。とくに3年目の今年は、半分以上が女性の参加者でした。自分が『木の駅プロジェクト』の先頭に立つことで、女性でもチェーンソーを扱えるということをアピールができて、講習に参加するハードルを少し下げることができたように思えます。それと、講習に女性がいることで以前とは空気感が変わり、みんな和気藹々とした雰囲気で講習を受けています。」

また、2020年には『木の駅プロジェクト』を通じて出会った山好きの女性4人と登山道を整備した。

「数十年間手入れがされず、どこが道かもわからない状態の名もない山がありました。そこで地元の所有者に山の整備をしたいことを伝えると、了承してくれたので、活動の一環として登山ガイドの資格を持つメンバーと、地図とコンパスを頼りに道を拓き、登山道を整備しました。この活動がメディアに取り上げられ、様々な場でお声がけいただく機会が増えるなど、普段の活動にも良い影響がありました。」

登山道を整備したメンバーと一緒に山の展望台にて

丹波の人々の優しさに触れて毎日を過ごす

毎日意欲的に仕事をこなす阪口さん。振り返ると、あまり苦労したことが思い浮かばないという。

「丹波市には他の協力隊員や、『木の駅プロジェクト』という居場所がありました。何かあってもすぐに相談できる環境があったことがありがたかったです。市役所の担当の方にもよくしていただき、独立した時にどうやっていくかの相談もできました。大きな支援にとても感謝しています。」

プライベートでも同様に、地元の人が様々な場面で力になってくれるという。

「着任直後に家が水漏れして、元旦に水を使えなくなったことがありました。まだご近所付き合いもなかったのに、隣の人が『うちにおいでよ』と言って下さり、お正月料理をご馳走になりました。その時から丹波市の人たちの親切な人柄に触れてきました。昨年、丹波市内で引越しをするために家を探していることを地元の方に話したら、『うちが空いているから住めば?』と気さくに言ってくださいました。不動産屋では見つからない物件だし、お互いの信頼関係が築けたからこそ貸していただけるのだと、私もようやく丹波の人間になれたと思えた瞬間でした。

左)木の駅プロジェクト「木の駅女子部」災害復興イベントの様子 右)チェーンソー講習にて講師のサポートをする

協力隊着任後、自分らしく自然体でいられるように!

3年間の任期で、自分にまつわるさまざまなことに変化があったという阪口さん。

「着任当初は、車を運転したこともなかったので、まずは車の運転の練習からでした。今では車の運転はもちろん、薪割りのスキルも身につきましたし、チェーンソーも講習で講師のサポートをするまでになれました。丹波市に来るまで山仕事をするなんて考えもしませんでしたが、こちらに来て、考え方や人生が一変しました。大阪にいた頃は、精神的に疲弊していて人とは関わらないように過ごしてきたのに、丹波市に住んでみたら他人とコミュニケーションを取ることは当たり前、人前で話すことも平気になりました。自己肯定感が高まり、自分の中で大きな変化が起きました。」

これまでの生活に違和感を覚え、疲弊していたところで丹波市に来たが、環境の変化や地域の方々の優しさに触れることで自然体で生きられるようになったという阪口さん。任期終了後も、他の仕事をやりつつ、「木の駅プロジェクト」の窓口の運営に関わっている。

「任期終了後は、この『木の駅プロジェクト』をどうやって継続していくかが課題です。近頃は、学校関係のイベントや体験学習の依頼も増えているので、併行してそちらも頑張って進めたいと思っています。私自身、協力隊という活動を通して、自分自身の成長にも繋がったと思いますし、さらに専門知識まで学ぶことができ、この丹波市で生きていく術を身につけることができました。今、迷っている人も、やりたいことがあるのであれば自分には無理かもと思わずに、チャレンジして欲しいと思います。」

地元中学生の林業体験受け入れ

Profile

兵庫県 丹波市 地域おこし協力隊  隊員OG
阪口明美さん

1974年生まれ。大阪府豊中市出身。国内外の様々な土地を巡って販売や旅行会社などの職業を経験。前職は豊中市の臨時職員。その後、友人に誘われた登山がきっかけとなり山の魅力に惹かれる。丹波市で森林整備を進める取り組みを行う地域おこし協力隊を募集していることを知り応募、2019年1月に着任。市民参加型の森林整備を進める「木の駅プロジェクト」の運営支援などに取り組む。任期終了後も運営支援を継続中。