IT業界から林業に転じた子林さん

自伐型林業、炭の加工・販売等

  • 滋賀

滋賀県 長浜市 地域おこし協力隊 隊員OB(任期:2018年10月〜2021年9月)
子林葉さん

両親が移住先として選んだ長浜の地で協力隊に応募

IT業界でプログラマー兼システムエンジニアとして、金融系システムの開発に携わっていたという子林さん。

「10年間、IT業界に勤めましたが、東京での生活に疲れていたこともあり、退職していったん大阪の実家に戻りました。一緒に暮らしていた両親がリタイア後に田舎暮らしをしたいということで、関西圏で家を探しており、滋賀県長浜市の余呉町の物件を見に行くことになったので、私も同行しました。知人が現地を案内してくれ、両親がその家を気に入ったので、契約することになりました。私自身もいずれ田舎暮らしをしたいと思っていたので、自分も長浜に移住しようと考えました。」

IT業界で働いていた反動からか、もっと手触り感のある仕事をしたいと思っていた子林さん。転職するなら第一次産業に就きたいという希望を持っていた。

「そうしたときに、長浜市の地域おこし協力隊で、自伐型林業(採算性と環境保全を両立させる持続的森林経営)というテーマで活動している3人の隊員のことを知り、興味を持ったので彼らに話を聞きに行きました。同市で開催している自伐型林業の講習に何回か参加しているうちに、市役所の地域おこし協力隊の担当者の方に出会いました。そこで、ちょうど協力隊の募集があることを知り、この機会に、自分も応募してみようと思いました。」

応募する前に、現役の協力隊の方に直接話を聞く機会を持ち、生の情報を得られたことが背中を押してくれたという。こうして2018年10月、子林さんは長浜市の地域おこし協力隊として着任した。

杉の枝打ち作業をする子林さん

先輩隊員や移住者との交流から密な人間関係を築いた

山林資源を自伐型林業という形で活用すること。それが地域おこし協力隊となった子林さんに課せられたテーマだった。現在、日本で行われている林業は山林所有者が、造林、保育、伐採といった施業を森林組合や事業者に委託していることが多いが、自伐型林業では自ら森林の管理と施業を行い、持続的に収入を得ることと環境保全の両立を目標にしている。

「当初のテーマは〝自伐型林業〟でしたが、私がここに着任する直前の2018年9月に大型の台風21号が関西地方を襲いました。台風被害は甚大で、長浜市内には今にも倒れそうな木が多数存在し、危険防止のために伐採してほしいという依頼が寄せられました。市民の方の要望にお応えすることも重要な任務なので、山に入るよりも街中で伐採する作業に比重が置かれることになりました。」

当初、想定していた山での活動ではなく、市街地の活動が中心となり「木に触れる時間が増えればいい」と思ったというが、その結果、市民と接する機会が増えた。活動を通じて、地域おこし協力隊を含め、長浜市に移住してきた人たちと親交を深められることも魅力だと感じたそうだ。

「地域おこし協力隊の活動をしながら、様々な方と交流を深めることができ、一緒に食事に行ったりする機会も多いです。同じ自伐型林業のテーマで入った同期の隊員や先輩隊員もいるので心強いです。移住者の方々と交流して人間関係を築けることも協力隊制度を活用するメリットだと思います。」

子林さんは、こうした作業と並行して、間伐材や倒木などを加工した炭や薪の商品開発でも試行錯誤を重ねた。

左)トチノキの巨木調査のために作業する様子 右)地元で開催されたイベントで実行委員を務めた子林さん(右から2人目)

自宅でケガをした際に改めて感じた地域のありがたさ

滋賀県の湖北地方には、地域特有の「オコナイ」という神事がある。村内安全、五穀豊穣を祈る祭りとして各集落の年頭行事となっており、子林さんも参加した。

「この地域の伝統行事として、各集落で形を変えながらもずっと継承されているそうです。神事というだけでなく、地域の人々の交流としても重要で、終わった後は新年会になり、私も参加して交流を深めることができました。地元の方々の中には渓流釣りの愛好会を結成している方もいて、私もその中に入れてもらい、一緒にアユ釣りを楽しみ、釣りの後の打ち上げで皆さんとお話をするというのも貴重な機会でした。長浜で釣りをしたことはそれまではなかったのですが、興味はあったので誘われて行ったところ、すぐにハマってしまいました。」

地元の人にピンチを救われたこともある。仕事終わりに自宅で薪作りをしているときのことだった。

「夕方は集中力が最も欠如しやすいので、チェーンソーを使うときは注意が必要だとわかっていたのですが、左手の甲を切ってしまいました。出血がひどく、自分では止血ができない状態で、慌てて近所の方の家に駆けこんで助けを求めました。その家の方に応急処置で止血していただき、さらに車で市内の病院まで連れて行ってもらいました。自分ひとりではどうにもできなかったので本当にありがたかったです。大ピンチを救っていただきました。」

日々の仕事で使い慣れているチェーンソーとはいえ、一歩間違えば大けがにつながってしまうことを改めて痛感することになったが、同時に近所の方の献身的な行動にも感謝しているという子林さん。地域コミュニティでの人との繋がりの大切さを大いにかみしめることになった。

左)休日には地元の人と一緒に渓流釣りを楽しむ 右)渓流釣りのスポットでもある高時川の上流

先輩隊員の設立した事業組合で任期終了後も林業を継続

長浜市に移住して、暮らしの質は以前と比べて各段に向上したと感じているそうだ。

「米も水も質が良くて美味しいですし、鮮度抜群の野菜を豊富に食べられるので、それだけでもありがたいと感じます。休日には山や渓流にも行けるし、最近では海釣りも始めました。会社員時代とは違ってストレスもほとんどなくなりました。」

子林さんは2021年9月に地域おこし協力隊の任期を終了し、前任者の協力隊OBが設立した自伐型林業を行う有限責任事業組合「木民」に参加する形で、仕事を続けている。

「森林整備や神社の木の伐採、さらに庭木のせん定なども請け負って生計を立てています。炭焼きにも力を入れていて、販路を定めて収益化していこうと取り組んでいます。この地域は、もともと炭焼きが盛んだったのですが、近年では後継者不足でその文化が失われつつあります。そこで、私たちが職人さんから技術を習得すると決め、炭焼きの継承に努めています。」

地域おこし協力隊として未経験の林業にチャレンジした子林さんだが、じつは素地があったという。

「私の場合は、長浜で職探しをする過程で地域おこし協力隊になり、地域との接点や現役隊員の方からの情報も得ていたのでミスマッチは起こりませんでした。思い切りも肝心ですが、やはり事前の下調べは入念にしておいたほうがベターだと思います。林業の仕事も未経験でしたが、じつは私の祖父は長野県の林業家で、祖父の家には五右衛門風呂があり、私も小さい頃から薪割り等の田舎暮らしの原体験がありました。子どもの頃から田舎暮らしをしたいという欲求がどこかにずっとあったことも、今の仕事に導かれた要因だったのでしょう。」

子林さんは長浜の地にしっかりと根を下ろし、新たな人生の歩みを進めている。

左)炭窯の前に立つ子林さん。師匠の下で炭焼きの技術を学んできた 右)山に入って作業すると充実感を得られるという

Profile

滋賀県 長浜市 地域おこし協力隊 隊員OB
子林葉さん

1982年生まれ。大阪府出身。東京のシステム開発会社を退職後に実家に帰り、両親が長浜市へ移住することをきっかけに、同市の地域おこし協力隊に応募。2018年に9月に着任し、自伐型林業を中心に活動。2021年に退任後、隊員OBが設立した有限責任事業組合「木民」に参加して林業を続けている。