持っているのは横田さんも商品化に関わった棚田米アイス

移住・定住促進、空き家バンク、音楽イベントなどを通じた地域の活性化

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栃木県 那珂川町 地域おこし協力隊 現役隊員(任期:2021年8月〜) 横田悠二さん

新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに移住を決意し、協力隊に応募

地域おこし協力隊に応募するきっかけや理由は人それぞれだが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による生活環境の変化によって協力隊という道を選んだのが橫田悠二さんだ。2021年8月、栃木県那珂川町地域おこし協力隊として着任した。

「以前はプロのシンガーソングライターとして全国のライブハウスを回り、月に10〜15本ほどのライブを行いながら、その合間で楽曲制作などをして生計を立てていました。ところが、2020年2月に大阪のライブハウスで発生したクラスターをきっかけに、3月以降のライブの出演を自粛するようになり、生活環境が一変しました。その直前の1月に結婚したばかりだったので、これからどうしようかと夫婦で話し合い、2人が生まれ育った宇都宮から離れて何か新しいことを始めようということになりました。そのとき移住先として浮上したのが、以前からしばしば足を運んでいた那珂川町でした。」

横田さんは2014年に栃木県で行われた「県内25市町のゆるキャラのイメージソング」を制作。那珂川町がその曲をPRに活用したことが縁となり、役場との関係が始まった。それから、年に一度の町のお祭りに呼ばれてライブを行うようになり、2019年11月には那珂川町のふるさと大使にも委嘱された。

「那珂川町に移住して、音楽ライブや田舎暮らしレポートの動画配信などで生計を立てようと考えて空き家の情報を集めているときに、偶然地域おこし協力隊の募集があることを知りました。ちょうど同じタイミングで役場の担当者からも協力隊を紹介されていたので、迷うことなく応募することにしました。」

移住前はプロのシンガーソングライターとして活動していた横田さん

動画編集のスキルを活かして、空き家紹介動画を制作

横田さんは協力隊の活動として「移住・定住促進業務」を担当することになったが、かねてから自ら移住して那珂川町の田舎暮らしの様子を発信したいと考えていたので、「まさにぴったりの仕事ができる」と思ったそうだ。

「建物や土地の所有者と、それを買いたい・借りたいという人をマッチングさせる業務なので、不動産関係の知識を学びながら物件の現地調査や建物の内見案内なども行っています。ただ、町内のあちらこちらに空き家があっても、それを活用しませんかと所有者に相談するには、固定資産税の通知書に書面を同封するくらいしか方法がありません。なかなか物件を登録してもらうところまで至らず苦労しています。人が住まなくなった物件は荒廃して倒壊することもあり得るので、何とか解決したいと思っています。」

協力隊として着任してまだ半年足らずの横田さんだが、大好きな那珂川町の将来を真剣に考えているからこそ、なんとか空き家を減らすための打開策を考えたいという。

「嬉しいこともありました。ライブ配信を始めたおかげでちょっとした動画編集もできるようになったので、空き家情報を動画で紹介するというアイディアを提案し、自分で撮影して編集した物件の内見動画を、町の空き家バンク検索サイト『なかがわぐらし』にアップしました。すると動画を見たという問い合わせが増え、11月には最初にアップした動画の物件が晴れて成約に至ったので、町の役に立てたかなと感じました。」

空き家の動画をアップしたことで物件の成約率も上がったという

かねてから縁があった役場担当者とともに、音楽イベントにも取り組む

一方、横田さんがずっと続けてきた音楽活動にも動きがあった。

「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で音楽関係のイベントはずっと中止になっていましたが、11月からはようやく活動が再開できるようになりました。自分を知ってもらうため、まずは町内のふたつの小学校の運動会で歌わせていただきました。それに加えて、地元の人たちと一緒に音楽をやりたいという思いがあったので、役場の人に尋ねてみたところ、ギター、ベース、ドラムから成る『ミカワヤブラザーズ』というスリーピースバンドが町内で活動していることがわかりました。すぐにコンタクトを取って、ショッピングセンターで音楽イベントを一緒に開催しました。たくさんの人がきてくれて、『このショッピングセンターがこんなににぎわっているのは久しぶりだよ』と言われたときは嬉しかったです。」

様々な活動に積極的に取り組む横田さん。協力隊をサポートしてくれている役場の担当者が、ゆるキャラソングのときの担当者だったということも原動力になっているという。

「地元のイベントなどにも積極的に参加している人なので、その人が楽しそうにやっている姿を見て感化されています。町のいろいろな情報を教えていただけるので、外から入ってきた人間としてはとても心強いです。」

左)一緒にライブを行ったミカワヤブラザーズのメンバーたちと 右)ポニィタウンでのライブにはたくさんの人が訪れた

子どもと大人がみんなで共有できるコミュニティスペースをつくりたい

横田さんは町内にある県立馬頭高校の総合学習の授業で、まちづくりについて講師を務める機会も得た。

「地域の方に那珂川町のことをもっと知ってもらうための産学官連携事業『なかがわ学』の授業では、まちづくりをテーマに地元の人や協力隊が講師を務めるのですが、僕もここでギター片手に話をさせていただきました。そのとき、高校生がバスの時間を待つことができて、夜には大人たちが集まることができるコミュニティスペースのような空間があったらいいなという話になりました。空き家バンクには店舗だった物件もあるので、それを高校生たちと一緒に改修して過ごしやすいコミュニティスペースをつくるという構想ができました。さらに、そうしたスペースで、ライブなどのイベントもできるようになったら最高だと思います。」

横田さんは、こうしたスペースの実現に向けて町に事業計画書を提出した。すでに目星をつけている物件の大家さんからは、「壁さえ壊さなければ好きに改修していいし、音楽をやってもいい」といった許可ももらっており、「協力隊の任期が終わる3年後を見据えて計画を進めていきたい」と、任期終了後に向けた計画も着実に進めているという。

最後に、地域おこし協力隊に興味がある人に向けてメッセージをお願いすると、「僕のように移住を決めた後に協力隊のことを知ったケースは別にして」と断ったうえで次のように話してくれた。

「移住後、暮らし始めてから『こんなはずじゃなかった』とギャップを感じることのないよう、協力隊になってみたい場所があれば、応募する前に実際に足を運んでその土地の雰囲気や生活環境を確かめたほうがいいと思います。そこに移住したいという人を歓迎しない市町村はないはずなので、役場を訪ねて担当部署に話を聞いてみるのもいいと思います。那珂川町なら、僕が自分の経験をもとにいろいろとお話しさせていただきます。」

馬頭高校の「なかがわ学」の授業で講師を務めたときの様子

Profile

栃木県 那珂川町 地域おこし協力隊 現役隊員
横田悠二さん

1990年生まれ。栃木県出身。プロのシンガーソングライターとして活動していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によってライブ活動が中止となったことがきっかけで那珂川町に移住。移住・定住促進業務や音楽イベントによって町を活性化させようと奮闘中。