大学院修了後、魚津市に移住した丹羽さん。背後は地元の設計事務所(建築科学研究所)と企画・運営する、棚の収納空間を1区画ごとに貸し出すオーナー制度「タナノナカミセ」の一画

空き家・空き店舗の活用、魚津中央通り商店街のまちづくり

  • 富山

富山県 魚津市 地域おこし協力隊 現役隊員(任期:2020年7月〜)
丹羽貴行さん

大学院時代の実施研究がきっかけとなり、協力隊として活動することに

神奈川大学大学院で建築学を専攻し、「防火帯建築」を研究テーマにしていた丹羽貴行さんは、2019年の夏から魚津市の旧市街にある防火帯建築で実施研究を行うことになった。防火帯建築とは都市の不燃化を目的に、3階建て以上の耐火建築物を帯状に連ねて防火帯にしたもので、長屋形式の商店街などをイメージしてもらえばわかりやすいかもしれない。

「研究のために魚津市と大学を行き来しながら、中央通り商店街にある防火帯建築の空き店舗をリノベーションしました。そのときは、3階建ての1階部分だけの改修で終わってしまったので、何とかして残った2階と3階の改修もやってみたいという思いがありました。どうすればそれができるのかと考えていたときに、市役所の人と話す機会があり、地域おこし協力隊の存在を知りました。ちょうど就職を考える時期であったため、建物をリノベーションし、活用することを仕事とするができ、かつ、まちのためになる活動ではないかと考え、大学院の修了と同時に協力隊に応募しました。」

以前、授業の一環で行った横浜市の防火建築のリノベーションを通じて、丹羽さんは自分たちの手で空間が変わっていく様子を、現場で実際に体験していた。

「建物の解体作業や防火のための設えをつくる際に、その場で出たアイディアを反映しながら、空間のデザインが徐々に変わっていくところを体験することができました。魚津市での実施研究も無事に終わり、引き続いて2階の改修を進めることができました。」

魚津市でも空き家とまちの再生が問題になっていたので、「リノベーションによって魚津市のまちづくりに何か貢献できれば」という考えが丹羽さんにはあった。ただ、このときすでに新型コロナウイルス感染症が拡大していたので、採用面接はオンライン。3カ月の自粛期間を経て、2020年7月に丹羽さんは地域おこし協力隊として魚津市に着任した。

左)防火帯建築と呼ばれる3階建ての建物が並ぶ魚津市の旧市街 右)大学院の後輩にも手伝ってもらいながら空き店舗だった建物のリノベーションを進める丹羽さん(左)

関係人口を増やすことを目的に、空き家や空き店舗のリノベーションを行う

魚津市に着任後、借家やアパートを転々としたあと、自身が改修に携わる建物の2階を住居とすることになった。

「着任時にはまだ2階の改修が終わっていなかったので、ひとまず住民票だけ移して、大学院生時代に滞在させてもらっていたイベントホールの2階の客間などに寝泊まりしながら部屋の改修を進めました。」

着任1年目は改修作業に集中するあまり、地域に目を向けることが少なかったという丹羽さんだが、次第に「このままではよくない」と考えるようになり、地域の祭りの手伝いや商店街の総会にも顔を出して積極的に地域との交流を図ったという。

「改修した建物を地域の方にお披露目する機会もつくりました。大学院では〝つくる〟というところまではやっていても、それを〝どう運営するか〟というところまでは考えていなかったので、1人でも多くの人に見ていただくことで活用の可能性を広げることができればと考えました。そうしたところ、魚津市で開催された『まちづくりフォーラム』で〝関係人口〟をテーマにしていたことから、2年目の活動では関係人口を増やす視点も持った仕組みを展開していくことにしました。」

活動の交流拠点として丹羽さんがオープンさせたのが、中央通り商店街の空き店舗を使った「タナノナカミセ」だ。

「この施設の目的は地域と多様に関わる〝関係人口〟を増やすことなので、魚津市内外の方でも利用できます。関係人口とはその土地の〝ファン〟のことですから、市内外の方々の交流を通じて魚津市のファンを増やせばそれが将来の移住のきっかけにもなるかもしれません。ここで行う事業は2つで、ひとつは店内にある85区画の棚を区画単位で貸し出して、棚のオーナーと来訪者をつなげていくことです。もうひとつは空き家や空き店舗などの不動産物件を、リノベーションプランの図面と工事費の見積もりまで付けて提案するというものです。『こう使ってみてはどうか?』というところまで示すことで、お店を始めたい方がイメージしやすくなってくれたらと思っています。」

左)「タナノナカミセ」と名づけた関係案内所を仲見世のように活気ある場所にしたいという 右)タナノナカミセは誰がどんな目的で訪れてもよい素敵な空間だ

地元の人に活動内容を知ってもらうために情報発信を強化したい

大学院生の頃から中央通り商店街で空き店舗のリノベーションをやっていた丹羽さんは、作業中に地元の人たちから声をかけられることも多い。なかには差し入れを持ってきてくれる人もいて、地元の人たちの温かさを感じている一方で、どこまで自分が地域に貢献できているのか悩むこともあるという。

「僕がやっている活動は、まだまだ市民の人たちに知られていない、というのが率直な気持ちです。地域おこし協力隊として活動しているからには、もっと活動内容を多くの人に知っていただく必要があります。自分の住まいとして改修している建物の作業はまだ終わっていませんが、大学院の後輩にも手伝ってもらいながら早く完成させて、これからいろいろな企画をつくっていくつもりです。直近では、1月下旬にタナノナカミセで専門家を講師として招いた住宅リフォームのセミナーを開催しました。今後も、いろいろな情報発信ができるように、しっかり準備を進めたいと考えています。」

改修した物件にて見学会を開催した

見知らぬ土地に飛び込む不安を「おためし地域おこし協力隊」を活用して解消してみては?

丹羽さんに任期終了後のことを尋ねると、しばらく考えた後こう答えた。

「魚津市に定住するのか、それとも離れるのか、正直なところ決めかねています。定住することにも離れることにもそれほど抵抗がありませんが、任期終了後の仕事は決めなければなりません。このまままちづくりに携わることが自分のやりたいことなのか、それとも別の何かをやりたいのか、残りの任期のなかで考えていくつもりです。ただ、もし僕が定住しない場合であっても、魚津市には何らかの形で、関係人口のひとりとして関わり続けていきたいです。」

最後に、これから地域おこし協力隊としての活動を考えている人に向けてメッセージをお願いした。

「僕の場合は大学院から、直ぐに協力隊になったという感じなので、そのまま参考にはならないかもしれません。ただ、そのまちが好きだからとか、自分のスキルを活かせるからなど、志望動機は人それぞれでいいと思います。知り合いが全くいない環境に飛び込むことに不安を感じ るなら『おためし地域おこし協力隊』の制度を使って、その場所や仕事がマッチするかどうか確かめてみるのもひとつの手だと思います。」

「おためし地域おこし協力隊」は、地域おこし協力隊として着任する前に、地域住民との交流も含めて2泊3日以上の地域協力活動の体験プログラムを行うというもの。受入地域、受入自治体、そして協力隊に興味がある人、という3者のミスマッチを解消する方法としても注目されているので、興味のある人は調べてみるといいだろう。

お世話になっている市役所の人たちと

Profile

富山県 魚津市 地域おこし協力隊 現役隊員
丹羽貴行さん

1994年生まれ。東京都出身。神奈川大学大学院時代に空き店舗などに興味を持ち、実施研究で訪れるようになった魚津市へ、大学院修了後に地域おこし協力隊として着任。空き家・空き店舗の活用や地元商店街でのまちづくり活動のほか、関係人口創出のための交流拠点「タナノナカミセ」の運営も行っている。