書道家・薛翔文 (せつ・しょうぶん)さんによる書道パフォーマンスで幕を開けた「第2回地域おこし協力隊全国サミット in ひょうご」。
アナウンサーより、「地域に入り込んで活躍する何人もの協力隊の友人に想いを馳せながら、その活動を盛り立てる元気よさ、沢山の方の目にとまる力強さを意識して書き上げられました。」と説明があった。
はじめに挨拶したのは高市早苗総務大臣。
地域おこし協力隊の任期は3年間だが、「任期終了後も地域で起業・就業・就農する割合は約6割にのぼります。また、隊員の約4割を占める女性の定着率は男性より高い傾向にあり、同じ女性として誇らしい」と、協力隊の定着率の高まりと、女性隊員の活躍ぶりを笑顔で報告した。さらに、「地域で開業・起業する際の財政支援、ニーズにマッチした研修の実施、さらには地域側の受け入れ体制を整えるための支援も充実させていきます」と、今後一層、支援を拡充させていく旨を述べた。11月28日は、大航海時代のポルトガルの航海者であるマゼランが、大西洋から太平洋に到達した日であることになぞらえ「フロンティア精神を持って地域の最前線で活躍し続ける人材に」と、参加者たちにエールをおくった。
続いて、開催地の兵庫県を代表し、金澤和夫副知事が挨拶。全国から集まった多くの地域おこし協力隊、自治体関係者、地域おこし協力隊に関心のある一般の方への感謝の意を表した。「兵庫県では、平成26年度から県独自の仕組みとして『ふるさとづくり青年隊』という制度を始めています。地域内の若者と地域外の若者をマッチングして地区にチームをつくり、地域外の若者が地域に通いながら地域内の若者と協働するという制度です。今年は12地区で151名の青年隊が活動しており、若い人材が地域で生み出すパワーに期待しています。」と兵庫県の取組を紹介した。
プログラムは全国の地域おこし協力隊によるPRタイムへと移り、全国から集まった約350人の隊員が檀上にあがった。地図で活動市町村の位置を示したり、写真やポスターで地域資源や活動内容を紹介したり、被り物や横断幕でインパクトを強めたりと、15秒の制限時間を目一杯に活かしたスピーチが続く。自治体ごとのカラーや創意工夫が感じられる多彩な演出に会場が沸いた。
次に、株式会社四万十ドラマ代表取締役の畦地履正さんが「田舎ビジネスおしえちゃる!」と題して特別講演を行った。四万十町(旧十和村)出身の畦地さんは、1987年にU ターンし農協に勤めていたが、1994 年に株式会社四万十ドラマが1名の常勤職員を全国公募した際、その職員として採用され、現在は代表を務めている。
「四万十ドラマは地域を見ることから始め、地域の人たちと一緒に地域ならではの特産品を開発・販売する地域商社です」と紹介。「初めは期待されていませんでしたが、手仕事で鉈や包丁をつくる鍛冶屋さん、川舟職人さん、木の名前はなんでも知っている山師さん、静岡から移住してきたお茶農家さん、130人の生産者を束ねてISO140001を取得して国際基準の野菜をつくっているおばちゃん達、天然の鮎・鰻を焼かせたら天下一の漁業組合長など、人と会い、地域を知ることから始めました」 現在は、特産品である「しまんと地栗」を活かしたビジネスに注力している。「大きくて甘い、ではなく、数値データをとりました。」栗の重量の全国平均は20グラムほどだが、しまんと地栗は平均25グラムほど。また糖度は、市販の甘栗で10度ほどだが、しまんと地栗は蒸した状態で20度ほど。客観的な数値で宣伝した。 さらに、6次化産業のポイントについて「『つくる産業』の基盤なくして6次化の発展はありません。第一次産業がしっかりしていないと6次化は成り立ちません」と、きっぱり語った畦地さん。新しい栽培技術を導入、栽培基準の統一、栽培管理体制の構築など、しまんと地栗栽培の抜本的な見直しを実施。「岐阜県から栗の剪定のプロフェッショナルが四万十に移住してくれたのですが、栽培量と質、ともに飛躍的に伸びました。」しまんと地栗栽培の基盤が強固となったことを背景に、これまで栗ようかんや栗きんとんだけであった加工品も、ペーストやモンブランなどの洋菓子など、バリエーションが増えた。もちろん加工も最初から最後まで地元の住民の手で行う。加工品の売上が伸びることで、生産者から直接、高値で定量を仕入れることが可能になる。好循環が生まれている。 しまんと地栗の専門店を東京・パリに出店するのが夢だと語る畦地さん。「ヨーロッパHACCPを取得する最新の工場を四万十に建てて生産力を上げたい。この工場で活躍する協力隊が来てくれれば。」自分のやりたいことを明確にして旗印を掲げることが仲間づくりのためには重要だという。 最後は、「国が『地方創生』を掲げていますが、地方は外に寄りかかってはいけない。『地方はジブンで考えろ』です。」と発奮を促し、講演を締めくくった。
司会として『農山村は消滅しない』などの著書をもつ明治大学農学部教授の小田切徳美先生、コメンテーターとして株式会社四万十ドラマ代表取締役の畦地履正さんを迎え、6名の地域おこし協力隊員、隊員OB・OGによるトークセッションが行われた。
自己紹介に続き、現役隊員たちが「直面している課題」や「将来の夢」について語った。
大岡さんは、「夢は沢山あり語りきれないですが、もっと情報発信をしていくためにも、ビューティーツーリズムを軸とした活動を続けながら、現在町にはない観光協会の設立を進めてきたいです。現状の課題としては、協力してくれる方はいらっしゃるのですが、主体的に協働してくれる人は、まだ連携している企業の社長さんと私だけです。仲間を増やせるように、今、地元の女性を中心に働きかけています。」と語る。小田切先生が「四万十ドラマも最初は一人からのスタートでしたが」と畦地さんにアドバイスを求めた。畦地さんは、「地域をまわり、人を知り、この人は!という志ある方を一本釣りしていきました。地域にも温度差があるので、みんな一緒はなかなかむずかしい。諦めずに、しぶとく、本気でぶつかり続ければ、共感してくれる人は必ず出てくるものだと思います」と、自身の経験をもとに力強く大岡さんを励ました。
高橋さんは、赴任当初の頃、夕張メロン農家さんと飲みながら話していたときに「夕張はメロンだけじゃないんだよなぁ」と言われたことが、ずっと心に残っているという。「夕張というとメロンや財政破綻が連想されがちですが、協力隊として活動する中で、それらだけでは決して語りきれないという思いが強くなりました。」「夕張市の一番好きなところはやはり『人』です。『住めば都』といわれるように、どこでも住んでしまえば『人』はいいんじゃないの、とも言われますが、夕張の人は夕張にしかいません、当たり前なのですが。夕張には、地域活動をしている人がとても多いんです。お酒を飲みながらでも、井戸端会議でも地域を盛り上げるためのアイデアについて活発に話をする皆さんは、地域おこしの先輩ばかりです。任期終了後は、夕張のみなさんとメロンや財政破綻だけではない夕張について情報発信を続けていければと思います」と語る高橋さん。
小田切先生は、「お金が人を呼ぶのではなく、人が人を呼ぶといいますね」と指摘すると、畦地さんも「四万十ドラマではインターンシップ受入事業を続けてきて、これまで300人ほどを受入れましたが、その中で30人ほどが最終的に定住にまでいたっています。インターンシップの間で出会った四万十の人とつながりが大きかったのではないでしょうか。」と、コメントした。
加藤さんは、「今住んでいる生野の集落は45軒のうち一人暮らしの高齢者が10軒強あり、買い物にも中々出かけられないし、料理も億劫になって出来合いのものですましてしまう方も少なくありません。こういった方々にできたての美味しいお総菜を届けたい。生野は鉱山の町であり、日本中から多くの人が集まってきた町ですので豊かな食文化があります。また毎日300人いらっしゃる観光客をターゲットにして名物料理、お好み焼き、たこ焼きに並ぶ第三の関西の名物料理を生野から発信したい、というのが私の夢です。ただ問題がありまして、私自身は小松菜とチンゲン菜の区別がつかないほどの料理の素人で、地域のお母さんに助けられてばかり」と不安そうに顔を伏せた。そんな加藤さんの姿を見た畦地さんは「加藤くんは、お母さんたちに好かれそうなキャラクターをしている。加工の仕事はお母さんたちにお任せして、自分は販売に専念するという役割分担をするのも良いでしょう。ライバルが現れても仲間に巻き込んでしまう感じで頑張って」と、背中を押した。
現役隊員の思いに続き、OB・OGが、自分たちの経験を踏まえてアドバイスを送った。
遠藤さんは、生姜山農園をたちあげたときに、パッケージからウェブまで、各種デザインを担当してくれていた同期の隊員が、任期終了後に辞めてしまったときの経験を振り返り、「パソコンを使える人も中々見つからない地域なのですぐに代わりは見つからなかったし、私自身にも妊娠出産という生活環境の変化があり大変苦労しました。自分が休んでも回っていく体制をつくるために、仲間探しを進めておいたほうが良いと思います」と話した。
藤井さんも数々の失敗経験を振り返り、「地域の皆さんや行政の人たちが、協力隊員をフォローし、守ってくれました。失敗をしても集まってきてくれる仲間がいました。自分の姿勢次第でたくさんの応援をいただきながらチャレンジを続けることができる。そんな期間が3年あると考えてやってみてほしいですね」とエールを送った。
水原さんが、「上小阿仁村に来て6年になりますが、昨晩、初めてある農家さんから『君はわからないかもしれないけど、君が来てくれて村は変わったんだよ。都会から来て楽しそうにやっている君みたいな若者がいると元気づけられるよ』と言っていただき感激しました。そして、そのような言葉を受けて自信を持って言えるのは、自分がこの地球上でも指折りの上小阿仁ファンなんだなということです。協力隊の皆さんもまず自分が楽しみ、地域を愛せば自分のもとにかえってくるものもあるでのは、と思います」と語った。
小田切先生は、協力隊の抱える悩みとして大きく2点、①仲間をいかにして増やしていくかについて、と、②行政との関係について、指摘。仲間をいかに増やしていくかについて、畦地さんは「繰り返しになりますが、まずは自分がやりたいことについて、明確な旗印を掲げることが効果的です。仲間がいない、だから始められない、ではありません。最初の段階で仲間がいなくとも、周囲からみて明確な旗印を掲げてまず始めてみる、挑戦してみる。そうしているとその旗印に気付いて近づいてくる仲間があらわれるのではないでしょうか。協力隊は3年間も自分のやりたいことに挑戦できる機会が与えられている。存分に活かして欲しい」と奮起を促した。また、行政との関係については、「行政の担当の方には、協力隊を見守っていて欲しい、応援団でいて欲しいとは思うが、協力隊も行政に頼ってばかりではいけない。繰り返しになるが、自分がチャレンジし続けることで地域の中でファンになってくれる人を見つけていけばよい」と答えた。
小田切先生は、「協力隊・地域・行政の3者の関係をいかにうまく構築していくかについて、しばしば議論になりますが、おそらく重要なことは、3者それぞれのスピード感が違うということではないでしょうか。協力隊の方々は、ある種、地元にしがらみのない中、何かしらやりたいという思いで外から入ってきていますから、もの凄いスピード感を持っています。その一方で、行政がそのスピード感に時々ついていけない、ということが指摘されますが、これは行政の仕組み上、仕方のない部分があるのかもしれません。また、地域の方々も、協力隊からすると腰が重く感じられることもありますが、一度地域の中で合意形成がとれ本気になった途端、協力隊のスピード感を追い越しますよね。このように、それぞれのスピード感には特徴があるのだということを理解すると、色々悩んでいることも、それだけで解決するわけではありませんが、心にかかる重荷が軽くなるのではないでしょうか。この3者のスピード感の違いについては、一度しっかりと議論すべきと思います」と指摘した。
現場からのリアリティあふれる言葉や体験を共有でき、参加者それぞれが地域おこしについて思いを馳せた時間になった。
最後に、小田切先生が「皆さんのお話をうかがって、協力隊の活動が非常に多様になっていることを再確認できました。また協力隊の皆様が旗印を掲げて仲間を集めていくこととその旗印が明確であるほど地域に仲間が増えていく、と畦地さんにアドバイスもいただきました。みなさんに大きな拍手をお送りください」と締めくくった。
活動報告を聞き終えた小田切先生は「協力隊となった動機やプロセスが多種多様であったように、活動内容も様々でした。性急な一般化は避けるべきだとは思いますが、4名の皆様の発表から教訓とノウハウが得られたように思います。今治市の小松さんは、移住の手段として協力隊を活用し、起業を目指しながら地域活動にも積極的に関わり地域からの信頼を得ていました。川上村の鳥居さん、みなさんも驚かれたと思いますが村長との距離の近さ。仲間を他の地域につくるという話もでました、別の言葉で言うと広域連携です。常陸太田市の長島さんの『ようやく民間になれた』という言葉には驚かされました。小さな成功体験の積み重ねが地域のみなさんの当事者意識を生み出しているというお話から、地域おこし隊は、その地域の人たちの “気持ちおこし隊”なのかもしれません。最後に、臼杵市の小金丸さんの『地域でがんばっている人と働きたい』、という話は、人を呼ぶのは人だということを再確認させられました。また、地域の人が主役であるという言葉から、協力隊の原点を教えられたように思います。フロンティアで活躍する地域おこし協力隊のみなさんの挑戦に触れたこのサミットは、単に成功事例を聞くだけのものではありません。多くは失敗を伴った数々の挑戦から、ノウハウや教訓を参加者一人一人が自分なりに一つでも抱えて地域に持ち帰るためにあるのだと思います。今後ともこのようなサミットが続いていくことを願います。」と総括した。
今回のサミットには、全国から約800名の方々が参加した。交流会会場で全体会の感想を聞いてみると、たくさんの出会いや刺激があったことはもちろん、自らが課題を解決するヒント、起業や開業に踏み出す勇気など、様々な収穫を得た喜びが伝わってきた。
「10月に隊員になったばかりですが、道しるべとなる話を聞くことが出来ました。」
「隊員になって2年目。任期終了後の事業計画についていろいろ考えていたところだったので、OB・OGの話を聞けたのが良かった」
「どうやって地元の人を巻き込んでいくのかという話が参考になりそう。旗印を立てると人が集まってくるというアドバイスが心に響きました」
「事例を聞いて学ぶ人あり、大勢と交流する人もあり、少ない人数でじっくり話す人ありと、めいめいの目的をもって参加できるのが良いと思います。会場に来られなかった人にも、この熱や想いを伝えたいですね」
「抱えている問題は違うけれど、楽しんで続けていこうという姿勢を同じくする方と出会い意気投合しました」
「行政と隊員の感覚にズレがないかを確かめにきました。隊員志望の人たちが何をしたいかをしっかりと聞き、受け入れ体制を整えておくことが大事だと感じました」
「PRタイムで目に留まった隊員さんに、こちらから声をかけてお話していました」
日頃はそれぞれの地域で活動している協力隊員や自治体職員が、“横のつながり”を得られることも、サミットの醍醐味のひとつだろう。
中締め後も熱心に意見交換を続ける参加者も。
参加されたすべての皆さんの、さらなる活躍を心から期待したい。